特定口座とNISA口座の両方で資産運用している場合、「どちらの口座から先に取り崩すべきか」は悩ましい問題です。
特に注意したいのが、金融所得と国民健康保険料・後期高齢者医療保険料との関係です。
金融所得の種類
- 譲渡所得:株式や投資信託などを売却して得た利益
- 配当所得:株式の配当金や投資信託の分配金など
- 利子所得:預貯金や公社債の利子など
現在は、特定口座(源泉徴収あり)で株式や投資信託を売却して得た譲渡益は、確定申告をしなければ、原則として国民健康保険料の算定や後期高齢者医療制度の窓口負担割合などの判定には反映されません。
一方、2026年には、後期高齢者医療制度について、確定申告をしていない場合でも、金融所得を保険料や窓口負担割合などの判定に反映できるようにする法改正が行われました。この仕組みは2026年現在まだ施行されておらず、公布後5年以内の施行が予定されています。
そこで本記事では、「現在の制度」と「今後の制度変更」を分けて、金融所得を踏まえて特定口座とNISA口座をどのように取り崩すべきかを考えます。
1.現行制度では「特定口座から先に取り崩す」考え方もある
現行制度では、特定口座(源泉徴収あり)で株式や投資信託などを売却した場合、源泉徴収によって課税関係を完結させ、確定申告をしないことができます。
この場合、売却による譲渡所得は、原則として国民健康保険料や後期高齢者医療の算定には反映されません。
そのため、現行制度を前提にすれば、
「特定口座(源泉徴収あり)の資産を先に取り崩し、NISAの資産はできるだけ長く運用する」
という考え方が合理的です。
2. NISA口座は「非課税メリット」を活かして長期運用する
NISA口座では、一定の条件を満たす上場株式や投資信託について、配当・分配金や売却益が非課税となります。
2024年からの新しいNISAでは、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は1,800万円です。年間投資枠360万円をフルに利用したとしても、保有限度額1,800万円を埋めるには最短で5年間かかります。
今から始めると、今後の制度変更までに保有限度額1,800万円が埋まらないケースもありますが、順次、「毎年のNISA枠をできるだけ有効に使う」のが良いでしょう。
また、まずはNISAの年間投資枠を埋めて、余剰資金は一時的に特定口座(源泉徴収あり)で運用しておいて、次の年に新たにを年間投資枠が出来たら、特定口座の資産を売却して、その資金をNISAでの新規購入に回すという方法も考えられます。
「保有する金融商品を特定口座からNISA口座へそのまま移すことはできない」ため、一旦、特定口座の金融商品を売却し、その資金でNISA口座で新たに購入することになります。
3.2026年に成立した「金融所得の反映」の改定に注意
金融所得と医療保険料の関係は、今後大きく変わる可能性があります。
2026年5月、健康保険法等の一部を改正する法律が成立しました。この改定では、後期高齢者医療制度について、これまで確定申告をしなければ把握されなかった上場株式の配当等の金融所得を、保険料や窓口負担割合などの判定に反映できる仕組みが盛り込まれています。
改正法は2026年に成立しましたが、金融所得を後期高齢者医療に反映する仕組みの施行日は「公布後5年以内」とされており、2026年9月現在、すでに新制度が始まっているわけではありません。
また、今回の改定は後期高齢者医療制度が対象であり、国民健康保険に同じ仕組みが全面的に導入されたわけではありません。
ただし、将来的には、「国民健康保険でも金融所得の反映が進む可能性があるのではないか」という前提で資産管理を考えるのが賢明です。
4.NISAは現時点では社会保険料への影響を受けにくい
NISAの大きなメリットは、一定の条件を満たす金融商品の売却益や配当・分配金などが非課税になることです。
現在の医療保険制度においても、NISA口座の金融所得は保険料等の算定対象外として整理されています。
そのため、NISA口座で保有する資産については、少なくとも現在の制度では、
- 売却益は非課税になる
- NISA口座内の配当・分配金等が非課税になる
- 売却益や配当・分配金等が医療保険の算定にならない
というメリットがあります。
今回成立した後期高齢者医療制度の金融所得への反映についても、NISA口座の売却益や配当・分配金等が医療保険の算定の対象とする改定ではありません。
ただし、社会保険制度は今後も負担増の方向に改定される可能性があるため、「NISAなら将来にわたって絶対に保険料へ影響しない」と断定せずに、「将来的には影響を受ける可能性がある」と理解するのが安全です。
5.「口座」だけでなく「金融商品の種類」も考える
特定口座とNISA口座のどちらを先に取り崩すかを考える際には、口座だけでなく、保有する金融商品の種類も重要です。
例えば、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」では、分配金は現金化されずに自動的に再投資する「分配金再投資型の投資信託」で配当所得は発生しない仕組みです。
自分が必要なタイミングで売却して現金化することができます。
一方、「定期配当がある個別株」や「定期的に分配金を受け取る分配金受取型投資信託」では、保有中は要不要とは無関係に配当・分配金を受け取り、配当所得が発生します。
今後、金融所得の社会保険料への反映の範囲が広がれば、「必要な時に売却して取り崩す方法」と「保有中に配当・分配金を受け取る方法」の違いも、より重要になる可能性があります。
老後の資産形成では、
「高配当だから有利」、「分配金があるから安心」
と単純に考えるのではなく、税金・社会保険料・運用効率・取り崩し方法をまとめて考えることが重要です。
取り崩しを自動化する方法としては、証券会社の定額売却サービス/定率売却サービスの利用もあります。
6.現時点で考えられる資産防衛の基本戦略
現行制度と今後の制度変更を踏まえると、次のような考え方ができます。
制度変更前・現行制度
まずはNISAの年間投資枠360万円(成長投資枠240万円、積立投資枠120万円)をできるだけ活用して資産運用する。
NISAの年間投資枠に余裕がある場合、余剰資金や特定口座の商品を売却した資金でNISA口座の商品を購入する。
さらに余剰資金があれば特定口座(源泉徴収あり)を利用する。
取り崩しが必要になった場合には、必要な分を特定口座(源泉徴収あり)から売却する。
NISAの1,800万円枠を使い切った後
NISAは非課税メリットが大きいため、長期運用する資金はNISAに残す。
必要な取り崩しは、特定口座(源泉徴収あり)から行い、あわせて今後の金融所得の社会保険料への反映状況を見ながら、売却時期や商品の種類を検討する。
75歳以降
75歳になると原則として後期高齢者医療制度の対象になります。
2026年に成立した改正では、後期高齢者医療制度において金融所得を保険料や窓口負担割合等に反映する仕組みが導入されることになりました。
したがって、75歳以降の資産取り崩しについては、税金・社会保険料・運用効率・取り崩し方法を見極めながら、「どの口座から」「どの金融商品を」「いつ売却するか」を従来以上に意識する必要があります。
7.まとめ
現行制度では、特定口座(源泉徴収あり)で金融商品を売却し、確定申告をしなければ、その譲渡益は原則として国民健康保険料や後期高齢者医療の所得計算には反映されません。
そのため、NISAの非課税メリットを長く活かすという観点から、「特定口座を先に取り崩し、NISAをできるだけ長く残す」という方法が合理的です。
ただし、2026年には後期高齢者医療制度について、金融所得を保険料や窓口負担割合などの判定に反映するための法改正が成立し、公布後5年以内の施行が予定されています。
したがって、老後の取り崩し計画では、
- 現在の制度ではどうするか
- 75歳以降に制度がどう変わる可能性があるか
- NISAの非課税メリットをどのように残すか
の3点を分けて考えることが重要です。
現時点では「特定口座を先に使う」が最適解ですが、今後も正解であり続ける保証はありません。
税金だけでなく、社会保険料、運用効率、生活費、資産配分まで含めて、自分に合った取り崩し計画を臨機応変に考えていくことが大切です。

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